夜明けの少し前に

第十話





「―――……」



 リードは、揺れる木漏れ日の中で目を覚ました。
 しばしぼうっとした後、隣に感じる寝息にそちらに顔を向ける。

 いつの間にか寄り添うように眠っていた少女。
 巨木の幹にもたれかかりながらも、頭は少し自分の肩に預けている。
 僅かに届く甘い香りに妙に照れ臭さを感じながら、リードはもう一度前を見た。






 目の前に広がるのは、朝日に光る緑が一面に走る小高い丘の光景。
 そしてその向こうには―――昨夜は気付かなかった、次の町の風景。

 昨夜―――

 林を急いで抜けた二人は、疲れきったまま、丘の上にある一本の巨木を目指した。
 辿り着き、その大きな根の間に座り込んだ途端……睡魔はあっという間に気の抜けた二人を支配した。
 結局野宿じゃないか、とリードは思いながらもこの初めての経験に喜びを感じていた。






「……ん」

 と、少女―――シルアも目を覚ましたようだった。
 はっと頭を上げ、そしてそれを預けていたのがリードの肩だとわかると。

「―――おはよう」

 リードが照れ隠しに朝の挨拶をする。

「……お……おはよう」

 彼女の口から小さくそう聞こえたかと思うと、次には赤らめた顔をふいと背けてしまった。
 だがリードはそれに気も悪くせず、機嫌の良いまま立ち上がって数歩木から歩いて立ち止まった。

 町は既に活気付いているようだった。
 眩しい太陽の光を受ける町並みは、例えそれがごく普通のものだったとしても彼らの目には美しく映る。
 見えるわけは無いが―――そこに暮らし行き交う人々の交わす声が聞こえてきそうなくらいに、町は目を覚ましていくように見える。

 シルアも立ち上がり、リードの少し後ろからその様を眺めた。
 昨夜のことが嘘のように、それは清々しく平和的で、希望に満ちていて。









 初めての旅で迎えた朝。
 何よりも清々しい朝日に包まれたこの光景にめぐり合えたことにシルアは感謝する。

 そよりと何気なく吹く風が、彼女の黒髪と服の裾を揺らす。
 目の前に居る彼のこげ茶の髪も揺れる。






「―――な、シルア」






「……え?」



 シルアはどきり、とした。
 何故って、今、彼は。

 リードは照れているのか振り返らなかったが―――それでも、言葉は力強かった。



「“月の光”……絶対に、見つけよう」



 シルアは一瞬、言葉を詰まらせて。
 それから、少しだけ緊張しながら答えた。






「―――ええ、……リード」






 口で紡ぐと、それは確かなものに感じた。