英雄




 姫が無事に目を覚まし、男は“英雄”となった。

 穏やかな空の下開かれた祝典に、男と姫は並んで歩き、喜び騒ぐ民に手を振る。



 ある晩。夢を、見た。

 これは、誰の夢だろう―――いや、知っている。
 男は、また、手を伸ばす。空間が、壊れて―――繋がる。



 そこは、大理石の神殿などでは無かった。
 そこもまた、一色の空間。闇色がひたすら拡がる光景。



 少し遠くに、光が見える。
 夢に距離は無い。数歩歩み寄ると、それは間近で見れた。



 ふわふわと浮かぶ、大人が一抱えできそうな大きさのシャボン玉のような球体。
 その半透明の膜から見えるのは、滑らかな鱗を持った一匹の竜が丸まって眠る姿。
 少なくともそれは、何も知らずにただ眠っているように見える。



『ああ、眠っているのか。夢の中で』

 男は呟く。だが竜は何の反応も示さない。



 ただ、眠り続ける。





 男は、目を覚ます。

 今日は、姫と、姫を救った“英雄”との婚礼の日。
 だが男の心は晴れない。今も眠り続けている竜のことを思い出してしまったから。



 そして“英雄”は誓うのだ。
 この国に眠る竜の眠りを永遠に護る、と。





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