ああ、私はきっと、この人が好きだったんだな。






 私は知らない。
 でも、私は知ってる。



 心が、覚えてる。
 頭は、覚えてない。






 悲しい顔をして笑うあなたに、私はどうすれば良いのでしょう。
 握られた手が不意に冷たく感じられて、私はとても不安になります。






 “私”が戻ってくれば、あなたは笑ってくれるのでしょう。












 オレンジ色








 雲が流れてゆく。
 私はそれを見上げる。
 でも、それ以外は知らない。



 私は、記憶を失った。



 目が覚めたとき、側には人がいた。
 1人、男の人が。

 とても心配そうに、私のこと、見てた。

 でも、知らない。
 私は、聞いてしまったんだ。

 だれ?

 全てが、壊れた。
 いや、自分が壊したのだ。

 後悔した。
 その言葉は、禁句よりも重い言葉だったのだと。






「マリ」



 私を呼ぶ声。
 だから私は振り返る。



「マリ、お腹はすかないか?」

「……だいじょうぶ」



 その男の人は、ジークって名前。
 でも、それ以外知らない。

 眼鏡をかけてて、とても優しそうな人。
 実際、私を見る目はとても優しい。

 でも、悲しみの色が混じっているのは、私のせい。

 彼は私の隣に座った。
 そして、同じように空を見上げる。



 雲が流れる。
 私達は動かない。






「……そろそろ寒くなってきたね。帰ろうか」

 こくり、と私は頷く。
 緑の地面から立ち上がり、周りを見渡す。

 太陽はもう、オレンジ色。
 その色があんまりに切なくて、それこそ涙が出そうで。



 ぎゅ、と後ろから抱きしめられる。






「マリ」

 呟かれる。

「マリ。愛してる」

 切実に。






 私は何もいえない。
 わからない。

 どうしようもない気持ちが伝わってきて、私は泣いてしまう。



 彼の名前を呼んではいけない。
 彼に、期待させてしまうから。









 マリが、戻ってきたんだって。









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