嘆きの歌




 泣いてる?
 違う、歌っている。



 胸が締め付けられるような、哀しみが叫んでいる。
 持ち主が誰かもわからない、哀しみが叫んでいる。

 涙が降って来たと思ったら、それは雨粒だった。



 古びた神殿から響く、声とも音ともつかない音楽。
 其れは恐ろしくもあり、また神秘的でもあり。
 しばし息を飲んで、やがて悲哀に包まれる曇り空の光景を眺める。



“これ以上此処にいると、哀しみに飲み込まれてしまうよ”



 誰かが、自分の耳にそう囁いた気がして、はっとする。
 何時の間にか頬を伝うのは、見ただけでは解らない一筋の涙。



 天の涙に紛れて流れる、自分の涙。



 本当に、何かに飲み込まれそうな感覚がして、
 思い切って踵を返した。





 あの歌が何時途切れるのか、自分は知らない。





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