真珠一粒




 二度は来ない夜に出遭った 其の女(ひと)に、

 自分は 恋をした。



 想いを 伝えて、

 口付けを 初めて 其の紅の乗る唇に 落とす。



 其の女は 何も言わない。

 一欠けの笑みも 一枚の怒りも 浮かべず、

 ただ 一粒の真珠を 渡す。



 控えめに 淡く輝く 海の泡のような其れは、

 まるで 何も知らない夜に零れ落ちた 一滴の涙のようで。



 何も 言えずに、

 ただ 自分の眼から 溢れた雫を、

 其の純白の粒に 零した。





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